人材派遣業の労務相談
クレーム産業といわれる人材派遣業
人材派遣業を営む以上、トラブルとクレームはなかなか避けては通れません。派遣先企業からは派遣社員の仕事ぶりについて不満やクレームの数々が寄せられ、派遣社員からは愚痴ともわがままともとれる声が巻き起こります。当センターにも、派遣会社から毎日多くのご相談があります。
派遣先企業は、派遣社員を正社員を補充する即戦力として活用し、短期間の間に穴埋め的な成果を出すことを期待しています。新卒採用のように自社の社風に馴染んでいくための緻密な研修計画を立てることもなければ、もちろん、中途採用のように即戦力の幹部候補として長期的な視点で活用しようというわけでもありません。したがって、企業が派遣社員をみる眼はどうしても短期的・即物的となりがちです。
派遣社員は、多くの場合、いまは正社員として会社に帰属心を持った働き方はしなくないと思っているか、もしくはある分野で自分の資質を活かせる仕事に短期的にチャレンジしてみたいと思って派遣の仕事を選んでいます。したがって、どうしても仕事に対する自己主張は大きくなりがちで、企業社会の規律や規範からは距離を置きたがる傾向が強いわけです。
派遣先企業と派遣社員とは、同じ職場で目下の仕事に対応しなければならない上司と部下(あるいは同僚)という点では立場が共通するわけですが、根本的には利害関係が一致しがたい立場にあるため、どうしてもお互いについてコミュニケーションの不足もあいまって誤解や偏見を持ちがちであり、トラブルやクレームへと結びついてしまう傾向があります。
派遣会社の担当者はこれらのクレーム対応に追われることになり、トラブル解決のために奔走することを余儀なくされることになります。
人材派遣業がクレーム産業といわれる所以です。
トラブルやクレームを解決するには
これらのトラブルやクレームを解決するために必要なことは、ひとつには、派遣会社の担当者自身が派遣法や労務管理に関する正しい知識を身につけ、率先して派遣先企業や派遣社員の疑問に答えていくことです。派遣社員を活用する企業でも、まだまだ派遣法の実務には疎いことが多く、誤った知識による思わぬ誤解があります。これらの誤解を解くことによって、クレーム発生の土壌が改良され、派遣先の満足度を高めることができます。
もうひとつは、派遣会社の発展は派遣社員の活躍によってもたらされるということを全社員が強く自覚し、労務相談や労務問題への対応にあたっても、あくまで派遣社員のモチベーション向上を意識する中で解決をはかっていくというスタンスづくりです。派遣社員からの苦情の内容の多くは、確かに労働時間や休日や給与や就業環境といった労務に関する問題ですが、これらは多くの場合、派遣社員の悩みと不安が錯綜する中で、派遣会社との接点となりがちな労務問題というかたちで浮上してきているに過ぎないのであり、いたずらに条件闘争をしたがっているような例は意外に少ないものです。
したがって、派遣社員からの労務相談に対応する場合は、正確な法律解釈そのものをぶつけたり、マニュアル的な模範回答をしても、それだけではなかなかコミュニケーションがはかられず、逆に人間味が感じられない対応として反感を買ってしまうことにもなりかねません。
派遣社員が求めているのは、必ずしも法律知識や世間の常識論などではなく、多くの場合、自分の存在を認めて向き合ってくれるコミュニケーションです。
そのため、労務問題を純粋に解決すべき労務問題として処理しようとしても、なかなか解決の糸口が得られないことが多いのです。
ですから、「してはいけない」という否定語により派遣社員に指導するのではなく、あくまで派遣社員が主役であることを自覚させることにより、やる気と自信をつけさせる対話法が効果的となります。
当センターでは、このような観点から、多くの労務相談にたずさわる中で、派遣社員のモチベーションの向上と、派遣会社の発展を支援しております。