派遣業・紹介業・請負業の労務相談
「偽装請負」にならないためのチェックリスト
「人材派遣」(労働者派遣)とは、労働者派遣法に基づいて、派遣元が雇用する労働者をその雇用関係の下に、かつ派遣先からの指揮命令を受けて、派遣先のために労働に従事させることをいいます。
「請負」とは、請負人がその仕事を完成することを約束して、相手方が仕事の結果に対して報酬を与えることを約束する契約(民法632条)のことをいいます。
製造業やIT業界などでは、必ずしも「派遣」か「請負」かが明確ではない契約や実態に基づいて、人材派遣(請負)を行っているケースもあります。
「派遣」と「請負」をめぐる区別は必ずし単純ではないため、国はその判断基準として、区分基準(労働省告示第37号)を打ち出しています。
現在では実務上、この基準に適合しない請負事業については、すべて「派遣」として取り扱われることになっています。
区分基準の具体的な内容は、以下のとおりです。
1.受託者の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること
- 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行っているか
- 労働者の労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っているか
- 企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行っているか
2.請け負った業務を受託者の自己の業務として独立して処理していること
- 業務の処理に必要な資金を全て自らの責任において調達・支弁しているか
- 業務の処理について、民法・商法その他の法律に規定された、事業主としての全ての責任を負っているか
- 単に肉体的な労働力を提供するものとはなっていないか
各都道府県の労働局や業界団体等から、さまざまなチェックリストが公開されています。
それらを活用することによって、区分基準に当てはまるかどうかを具体的に判断することができます。
区分基準の内容に適合しない項目があった場合、基本的には適正な「請負」とはいえず、いわゆる「偽装請負」の状態だいえます。
具体的な改善・是正を講じることで、適正な「請負」状態になるように改めるか、契約および実態を「派遣」の形態に切り替えるなどの対応が必要になります。
「偽装請負」については、悪質だと認められた場合、「1年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑」(職業安定法違反)に問われることになります。
適正な「請負」に改善するための方法
チェックリストによって「請負」が適正でないと判断された場合、どうすれば適正に行なうことができるようになるのでしょうか?
適正であるかないかの判断はチェックリストによって書面で行なうことができますが、適正化をはかるための是正は、現場に行かなければまず実行できません。
例えば、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行っているか」という判断基準について、完全に「○」がつけられる実態にはないとき、作業はを即座にやめることができれば問題ありませんが、現実的には、適正になるよう是正を行いつつ、作業を継続するケースが多いと思います。
したがって、適正でないという現実に直面したとき、今後どのような対策を行なえば適正になるのか、いつまでにどのような対応をとればよいのかという具体的な方法を考えることが肝要です。
「労働者に対する業務の技術指導や指揮命令を全て受託者が行なう」という項目が完全に「○」ではなく、日常的な指揮命令は受託者が行っているが、トラブル発生時の対応や専門的な技術指導は親企業の担当者が直接指揮命令をしてしているとします。
この状況を是正するためには、どのような対応が必要でしょうか?
まず、請負会社の管理者は、親企業から経営的に完全に独立した立場で部下に指揮命令できておらず、親企業の組織に依存している状況にあるものと思われます。
なぜ、このような状況にあるのでしょうか?
契約上は請負契約といっても、親企業は請負先の能力を信頼できないでいるのでしょうか?
あるいは、請負会社の管理者には独立してこの作業の請負を行なうだけの技能と裁量がないのでしょうか?
そもそも、両社にはこの作業の形態が請負であるという自覚がなかったのでしょうか?
いずれにしても、両社が請負契約の内容に従ってそれぞれの法的責任を適切に負担し、特に請負会社の管理者については、十分に契約上の責任を履行しうるだけの能力担保を備える必要があります。
請負契約の締結にあたっては、その前提となるべき準備行為が重要となってきます。
多くの場合、事前準備が不足しており、請負会社が請負契約を履行しうるだけの能力担保が得られていないにも関わらず、形式的に請負契約を締結してしまっています。
したがって、請負契約の締結に際しては、請負会社が実態を備えていくための具体的なステップが重要になってきます。
当センターでは、適正な「請負」を行なうためのステップアップについて、実情に即した対応策を講ずべき可能性について具体的に考えていきます。