職業紹介事業の許可条件が追加されます

令和7年1月1日より、職業紹介事業の許可条件に「転職勧奨の禁止」と「お祝い金等の提供の禁止」の2つが追加されます。ただし、この2つの禁止は突然降って湧いた禁止事項ではなく、すでに職業安定法指針には規定されている項目です。

そこで今回のコラムでは、これまでの経緯、許可条件に追加されるに至った背景をみていきたいと思います。

 

(1)職業紹介事業制度の概要

職業紹介とは、求人および求職の申込みを受けて、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんすることをいいます。

用語を整理すると、「求人」とは報酬を支払って自己のために他人の労働力の提供を求めることをいい、「求職」とは報酬を得るために自己の労働力を提供して職業に就こうとすることをいいます。

「雇用関係」とは、報酬を支払って労働力を利用する使用者と、労働力を提供する労働者との間に生じる使用・従属の法律関係のことで、「あっせん」とは求人者と求職者との間をとりもって、雇用関係が円滑に成立するように第三者として世話をすることをいいます。

 

 

取り扱う職業の範囲は、有料職業紹介事業については「港湾運送業務」および「建設業務」に就く職業以外の職業について行うことができます。

無料職業紹介事業については、特段の制限はありません。

 

(2)就職お祝い金

就職お祝い金とは、転職先(就職先)が決まった人に対して職業紹介事業者から支払われる金銭等のことをここでは意味します。入社祝い金、転職祝い金など名称は様々ですが、同じ趣旨の金銭と考えて、お間違いないと考えます。

ちなみに、失業保険の受給者が、早い段階で就職すると、ハローワークで受け取れる「再就職手当」のことを一般に「就職祝い金」と呼ぶことがありますが、全く別のものです。

 

以前は、当たり前のように行われていた「就職お祝い金」の制度ですが、職業紹介事業者が、自らが紹介した就職者に対して「転職したらお祝い金を提供しますよ」などと持ちかけて転職を勧奨し、繰り返し手数料収入を得ようとする事例が発生していました。このような行為は、労働市場における需給調整機能を歪め、労働者の雇用の安定を阻害する行為であるといえます。

 

そこで、令和3年4月1日、職業安定法に基づく指針の一部改正が行われ、「就職お祝い金等の提供禁止」が規定されました。

これにより、「お祝い金」その他これに類する名目で、求職者に社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭などを提供することで、求職の申し込みの勧奨を行うことが禁止されることになりました。

 

 

求職の申し込みの勧奨は、金銭の提供ではなく、職業紹介事業の質を向上させて、それをPRするかたちで行うようにすることが必要です。

 

(3)職業紹介事業の許可条件への追加

ここまでみてきたように「就職お祝い金」の提供による不適切な転職勧奨があった実情を背景に、令和3年4月1日の指針改正が行われました。しかし依然として、職業紹介事業者による「就職お祝い金」の提供による転職勧奨が行われている実態が存在していました。

そこで、法令順守徹底のためのルールと施行の強化のために、「転職勧奨禁止」と「お祝い金等の提供の禁止」が職業紹介事業の許可条件に追加されるに至りました。

 

具体的には、次のような文章が許可条件通知書に追加されることが予定されています。

 

◎その紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る。)に対し、当該就職した日から2年間、転職の勧奨を行ってはならないこと。

◎求職の申込みの勧奨については、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供することによって行ってはならないこと。

 

許可条件の追加は、令和7年1月1日から適用されます。

今後は、新規許可申請の場合は令和7年1月1日付で下りた許可から許可条件が追加されることになります。また、すでに許可を取得している場合は有効期間の更新のタイミングで、順次、許可条件が付されていくことになっています。

 

なお、有効期間の更新時期を迎える前に(今回追加される許可条件が付される前に)、「転職勧奨の禁止」「お祝い金等の提供禁止」に違反した場合は、その事業者に対して是正指導を行うとともに、併せて許可条件の追加を行うことになります。それでもなお、違反が継続・反復する場合は、許可取消の対象となりますので十分注意してください。

 

 

以上、今回のコラムでは、新たに追加される職業紹介事業の許可条件について取り上げました。「社会通念上相当と認められる程度」を超えた金銭等をお祝い金としての提供を禁止する趣旨ですが、「社会通念上相当と認められる程度」に関しては明確な規定がありません。500円程度のクオカードや実費交通費くらいまでが「社会通念上相当と認められる程度」であると言われていますが、ご心配なら一切設けないほうが良いかもしれません。

 

繰り返しになりますが、求職の申し込みの勧奨は、お祝い金に頼ることなく、手数料・返戻金の明確化、情報開示などコンプライアンスを遵守することは当然として、求職者・求人者の要望をしっかり傾聴し、職業紹介事業の質を向上させていき、それをPRすることで行っていくことが必要です。

 

 

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