労働契約申込みみなし制度とは?

労働契約申込みみなし制度とは?

 

派遣先が一定の違法派遣を受けた場合には、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、派遣元事業主(派遣会社等)との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだとみなされる制度があります。「労働契約申込みみなし制度」と呼ばれますが、前回のブログでも取り上げた「派遣可能期間の制限」に違反した場合もその対象となります。

 

そこで今回のコラムでは、前回のテーマとも関係の深い「労働契約申込みみなし制度」について取り上げてみたいと思います。

 

(1)労働契約申込みみなし制度とは

労働契約申込みみなし制度とは、派遣先等が違法派遣を受けた時点で、派遣先等が派遣労働者に対して、その派遣労働者の雇用主(派遣元事業主)との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだとみなす制度のことです。

派遣先等が労働契約の申込みをしたものとみなされた場合、みなされた日から1年以内に派遣労働者がこの申込みに対して承諾する旨の意思表示をすることにより、派遣労働者と派遣先等との間で労働契約が成立することになります。

 

 

なお、派遣先が違法派遣に該当することを知らず、かつ知らなかったことに過失がなかったときは適用されません。

 

【労働契約申込みみなし制度の背景】

労働契約申込みみなし制度は、違法派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするために規定されたものです。

善意無過失の場合を除き、違法派遣を受け入れた派遣先にも民事的な制裁を科すことで、法の規制の実効性を確保することが制度の趣旨とされています。

 

 

(2)労働契約申込みみなし制度の対象となる違法派遣の5つの類型

労働契約申込みみなし制度の対象となる違法派遣には、次の5つがあります。

①労働者派遣を行ってはならない業務に従事させた場合

②労働者派遣事業の許可を受けていない者から労働者派遣を受け入れた場合

③派遣先事業所単位の期間制限を超えて、労働者派遣を受け入れた場合

④派遣労働者個人単位の期間制限を超えて、労働者派遣を受け入れた場合

⑤いわゆる偽装請負等により、労働者派遣を受け入れた場合

 

以下、詳しく見ていきます。

 

①労働者派遣を行ってはならない業務に従事させた場合

派遣先が次の業務に派遣労働者を従事させた場合には、その派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなされます。

(ⅰ)港湾運送業務

(ⅱ)建設業務

(ⅲ)警備業務

(ⅳ)病院等における医療関連業務

ただし、(ⅳ)については、紹介予定派遣を行う場合、産前産後休業・育児休業・介護休業等を取得した労働者の代替として従事する業務の場合は派遣が可能です。

また、医師の業務、看護師、准看護師、薬剤師、臨床検査技師および診療放射線技師が行う診療の補助等の業務であって、派遣労働者の就業場所がへき地にある場合、地域医療確保のために派遣労働者を従事させる必要があるものとして厚生労働省令で定める場所である場合も派遣が可能です。

 

②労働者派遣事業の許可を受けていない者から労働者派遣を受け入れた場合

労働者派遣事業の許可を受けていない事業主から労働者派遣を受けた場合には、その事業主から受け入れた派遣労働者に対して、労働者派遣を受けた者が労働契約を申し込んだものとみなされます。

許可事業主については、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」で確認することができるので、契約前に確認しておくことが大切です。

ちなみに「人材サービス総合サイト」は、厚生労働省職業安定局が運営する労働者派遣事業、職業紹介事業および特定募集情報等提供事業の情報を提供するサイトです。

 

人材サービス総合サイトでは、次のことができます。

 

・労働者派遣事業、職業紹介事業および特定募集情報等提供事業の許可・届出事業所の検索

・許可を受けた事業所は、掲載された情報に追加情報(ホームページのリンク、得意とする職種の掲載等)を登録することができ、情報提供の手段として活用

・労働者派遣事業、職業紹介事業等の制度や最新情報等の閲覧

以上のことができますので、ぜひ契約前の確認等に活用して下さい。

 

③派遣先事業所単位の期間制限を超えて、労働者派遣を受け入れた場合

次の場合は、期間制限の抵触日以降、受け入れた派遣労働者(期間制限の対象外の派遣労働者を除きます)に対して、派遣先が労働契約を申し込んだものとみなされます。

 

(ⅰ)抵触日の1か月前までに過半数労働組合等から派遣可能期間を延長するための意見聴取を行わずに、引き続き労働者派遣を受けた場合

(ⅱ)意見を聴取した過半数代表者が管理監督者であった場合

※管理監督者しかいない場合に、民主的な方法によって選出された者から意見聴取を行った場合は除きます。

(ⅲ)派遣可能期間を延長するための代表者選出であることを明示せずに選出された者から、意見聴取を行った場合

(ⅳ)使用者の指名などの非民主的な方法によって選出された者から意見聴取を行った場合

 

④派遣労働者個人単位の期間制限を超えて、労働者派遣を受け入れた場合

同一の派遣労働者を、3年を超えて派遣先の同一の組織単位に従事させた場合、その派遣労働者に対して派遣先が労働契約を申し込んだものとみなされます。

 

【労働条件みなし制度の明示】

派遣元事業主が派遣労働者に就業条件等を明示する際に、「派遣先事業所単位の期間制限(上記③)または派遣労働者個人単位の期間制限(上記④)に違反して労働者派遣を受けた場合には、派遣先が労働契約の申込みをしたものとみなされる」ことを併せて明示する必要があります。

 

なお、派遣可能期間の制限についての詳細は過去掲載分のコラムをご参照ください。

 

○派遣可能期間の制限(いわゆる「3年ルール」)とは

https://www.hakengyou.com/post-3559/

 

 

⑤いわゆる偽装請負等により、労働者派遣を受け入れた場合

いわゆる偽装請負等とは、労働者派遣法等の適用を免れる目的で、請負等の名目で契約を締結し、必要とされる事項を定めずに労働者派遣を受け入れることをいいます。

 

 

このような「いわゆる偽装請負等」の場合、労働契約申込みみなし制度が適用されます。

 

ただし、いわゆる偽装請負等については、他の4つの類型と異なり、労働契約申込みみなし制度が適用されるためには、いわゆる偽装請負等の状態(以下「偽装請負等の状態」といいます)になるだけではなく、労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」(以下「偽装請負等の目的」といいます)が必要であるとされています。

 

偽装請負等の目的の有無については、案件により個別具体的に判断されることになりますが、「免れる目的」を要件として法に明記した趣旨から、指揮命令等を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって、「偽装請負等の目的」を推定するものではないと解釈されています。

 

なお、請負契約等を結んだ時点では「偽装請負等の目的」がなかった場合でも、その後、偽装請負等に該当するとの認識が生じた場合には、認識した時点が1日の就業開始時点であれば、その日以降に労働契約の申込みをしたものとみなされます。

また、偽装請負等に該当するとの認識が生じた時点が1日の就業開始後であれば、その日の翌就業日以降に初めて指揮命令を行った時点で、労働契約の申込みをしたものとみなされます。

 

以上、今回は「労働契約申込みみなし制度」について取り上げました。

制度が適用されると、派遣先はその意思とは無関係に労働契約の申し込みをしたことになり、派遣労働者が承諾すると直接雇用をする義務が生じます。当然、様々な手続きの必要性が生じ、保険料の負担などで人件費も増大することになります。

制度の適用を拒絶したり、派遣労働者からの承諾の意思表示を無視したりすれば、行政指導の対象ともなります。そもそも違法派遣があることが前提となっている制度ですので、事案によっては悪質な場合、企業名の公表も考えられます。労働者派遣により業務を行う場合は、派遣元・派遣先とも制度を十分理解し、注意して進めるようにお願いいたします。

 

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