派遣労働者の待遇に関する事項等の説明と明示

労働者を派遣労働者として雇い入れるとき、さらに実際に労働者派遣をしようとするときなど、派遣法は派遣元事業主がその労働者に対して、多くの項目について説明や明示、通知を行うことを義務付けています。しかし、その内容・方法・タイミング等については細かいルールがあり複雑です。特に労働者派遣業の許可を取得して、初めて派遣を行う事業主様から質問をお受けすることが多くあります。

そこで今回のコラムでは、そのなかの一つである「待遇に関する事項等の説明と明示」に絞って取り上げてみたいと思います。

 

(1)派遣労働者として雇用しようとするときの待遇に関する事項等の説明

 

派遣元事業主は、派遣労働者として雇用しようとする労働者(※下記参照)に対して、その者を派遣労働者として雇用した場合の賃金の見込み、その他の待遇に関する事項等を説明する必要があります。説明すべき項目は次のとおりです。

 

※「派遣労働者として雇用しようとする労働者」

・いわゆる登録型で労働者派遣事業が行われる場合における、登録状態にある労働者

・いわゆる常用型で労働者派遣事業が行われる場合で、新たに労働者を派遣労働者として雇用しようとする者など

以上のパターンでの労働者のことを指します。既存の労働者を派遣労働者とするときは対象とならず、説明は不要です。

 

【説明すべき事項】

①労働者を派遣労働者として雇用した場合におけるその労働者の賃金額の見込み、社会・労働保険の加入、想定される就業条件等

「賃金額の見込み」は、能力・経験・職歴・保有資格等を考慮して、派遣労働者として雇用した場合の現時点における賃金額の見込みで、一定の幅があっても問題ありません。

「社会・労働保険」の加入は、一般的な社会・労働保険の加入条件の説明で足りますが、予定されている派遣先がある場合は加入の有無を明示する必要があります。

「想定される就業条件等」は想定される就業時間・就業場所、教育訓練等について、その時点で説明可能な内容を説明すればOKです。

 

②事業運営に関する事項

派遣元事業主の会社の概要(事業内容、事業規模等)を説明します。既存のパンフレット等がある場合は、それを活用して説明しても問題ありません。

 

③労働者派遣に関する制度の概要

労働者派遣制度の概要が分かれば問題ありませんが、特に派遣労働者の保護に関する規定については十分な説明が求められ、この説明には労働契約申込みみなし制度の内容を含むものであることが必要です。

 

しかし、いざ説明するとなると難易度が高く感じられるかもしれません。しかし心配ご無用です。そんなときには厚生労働省発行の「派遣で働くときに特に知っておきたいこと」というパンフレットがおすすめです。この資料を活用して説明すれば問題ありません。厚生労働省のホームページからダウンロードできます。もちろん、派遣元事業主で独自に作成した資料でも、同等以上の内容が盛り込まれていれば差し支えありません。

 

 

 

なお、労働省派遣法に改正があった場合には、改正法の内容についても説明が必要です。そしてこの場合には、すでに派遣労働者として雇用している人についても、派遣元責任者の責務として、同じように改正の内容について改めて説明が必要ですのでご注意ください。

 

④キャリアアップ措置(教育訓練や希望者に対して実施するキャリアコンサルティング)の内容

教育訓練(派遣法第30条の21項に規定するもの)の訓練内容・受講方法、キャリアコンサルティングの相談窓口(相談先・利用手法)についての説明が必要です。

説明に際しては、派遣労働者のキャリア形成支援につながるように、分かりやすく説明するとよいです。

例えば、キャリアパスに応じた教育訓練の体系(受講のモデルケース)を示したり、キャリアコンサルティングの過去の相談例を使ったりすると分かりやすいかもしれません。

 

 

 

【説明の方法】

「賃金額の見込み」の説明は、書面の交付・FAX・電子メールにより行う必要があります。

それ以外の項目は、書面の交付・FAX・電子メールのほか、インターネットに掲示することで説明することも可能です。ただし、派遣元事業主のホームページのリンク先を明示するなど、労働者が確認すべき画面が分かるようにする必要がありますのでご注意ください。

 

(2)派遣労働者として雇い入れようとするときの待遇に関する事項等の明示及び説明

 

派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、あらかじめ、その労働者に対し、文書の交付等によって、労働条件に関する事項を明示するとともに、次の派遣法の規定により、講ずることとしている措置の内容を説明する必要があります。

◎均等・均衡待遇の確保(派遣法第30条の3

◎一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇の確保(派遣法第30条の41項)

◎職務の内容等を勘案した賃金の決定(派遣法第30条の5

 

なお、有期雇用派遣労働者に対しては「労働契約の更新ごと」に明示および説明が必要となります。

 

【明示すべき事項】

①昇給の有無

「昇給」とは、一つの労働契約の中での賃金の増額を指します。したがって、有期労働契約の契約更新時の賃金改定は、「昇給」には当たりません。

 

②退職手当の有無

「退職手当」が勤続年数等に基づき支給されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示したうえで、あわせて「退職手当」が勤続年数等に基づき支給されない可能性があることについても明示することが必要です。

 

③賞与の有無

「賞与」が業績等に基づき支給されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示したうえで、あわせて「賞与」が業績等に基づき支給されない可能性があることを明示することが必要です。

 

④協定対象派遣労働者であるか否か

対象である場合には、労使協定の有効期間の終期の明示も必要です。

 

⑤派遣労働者から申し出を受けた苦情の処理に関する事項

・派遣労働者の苦情の申し出を受ける者

・派遣元事業主、派遣先において苦情処理をする方法

・派遣元事業主と派遣先との連携のための体制

以上の事項を明示する必要があります。

 

【明示の方法】

書面の交付、FAX(派遣労働者が希望した場合に限ります)、電子メール(派遣労働者が希望した場合に限ります)のいずれかの方法で行います。

 

【説明すべき事項】

次の項目について説明をしなければなりません。

①派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講じるか

②均衡待遇の対象となる派遣労働者の賃金について、職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験その他の就業の実態に関する事項のうちどの要素を勘案するか

③労使協定方式によりどのような措置を講じるか

 

 

【説明の方法】

説明は、書面の活用その他の適切な方法により行うことが必要です。

具体的には、派遣労働者がその内容を理解できるように、書面を活用し、口頭により行うことが基本となります。その際の書面としては、就業規則、賃金規程、派遣先に雇用される通常の労働者の待遇のみを記載した書面が考えられます。

また、説明すべき事項が全て記載されており、派遣労働者が容易に理解できる内容の書面を用いる場合には、その書面を交付する方法も認められています。

 

(3)労働者派遣をしようとするときの待遇に関する事項等の明示及び説明

 

派遣元事業主は、労働者派遣(労使協定に係るものを除きます)をしようとするときは、あらかじめ、その派遣労働者に文書の交付等によって、労働条件に関する事項を明示するとともに、次の派遣法の規定により、講ずることとしている措置の内容を説明する必要があります。

◎均等・均衡待遇の確保(派遣法第30条の3

◎一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇の確保(派遣法第30条の41項)

◎職務の内容等を勘案した賃金の決定(派遣法第30条の5

 

【明示すべき事項(派遣先均等・均衡方式の対象となる労働者)】

①賃金の決定に関する事項

(ただし、退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与、精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当等は除きます)

 

②休暇に関する事項

 

③昇給の有無

 

④退職手当の有無

 

⑤賞与の有無

 

⑥協定対象派遣労働者であるか否か

(協定対象派遣労働者である場合には、その協定の有効期間の終期)

 

【明示すべき事項(労使協定方式の対象となる労働者】

⑥協定対象派遣労働者であるか否か

(協定対象派遣労働者である場合には、その協定の有効期間の終期)

 

【明示の方法】

書面の交付、FAX(派遣労働者が希望した場合に限ります)、電子メール(派遣労働者が希望した場合に限ります)のいずれかの方法で行います。

 

【説明すべき事項、説明の方法】

労働者派遣をしようするときの説明すべき事項、および説明の方法は、派遣労働者として雇い入れようとするときの場合と、全く同じ内容、同じ方法ですので、(2)をご覧ください。

 

以上、今回は派遣元事業主が講ずべき措置の中で「待遇に関する事項等の説明と明示」に絞って取り上げました。冒頭にも書きましたが、派遣法により明示や通知、説明が必要な項目は、各タイミングにおいて他にも多くあります。時系列に沿って適切に行う必要がありますので、各労働局ホームページなどに掲載されたフローチャート等を参考に準備を進めてください。

 

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