「キャリアアップに資する教育訓練」計画の策定
労働者派遣事業主の皆様、派遣事業報告書の作成と提出お疲れさまでした。
派遣事業報告書の各報告項目について、今年も弊所には多くの相談と質問がよせられました。そのうちのひとつ、「キャリアアップに資する教育訓練」について、今回のコラムでは取り上げてみたいと思います。
(1)キャリア形成支援制度
平成27年の労働者派遣法の改正により、労働者派遣事業の新たな許可基準として、派遣労働者の「キャリア形成支援制度」を有することが定められました。
これにより労働者派遣事業の許可申請を行う場合、「キャリア形成支援制度」を設けたうえで、「キャリアアップに資する教育訓練」の計画を策定することが必要となりました。
具体的には、以下の要件を満たす「キャリア形成支援制度」を設ける必要があります。
①派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めていること。
※今回のコラムのテーマですので、詳細はこのあと記載します。
②キャリアコンサルティングの相談窓口を設置していること。
・相談窓口には担当者(キャリアコンサルティングの知見を有する者)が配置されていること。
・相談窓口は、雇用する全ての派遣労働者が利用できること。
・希望する全ての派遣労働者がキャリアコンサルティングを受けられること
③キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供について規定されていること。
・派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供のための事務手引、マニュアル等が整備され、それらの手続きが規定されていること。
以上の項目が適切に設けられていることが必要です。
(2)派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画
派遣労働者のキャリアアップのための教育訓練は次の要件をすべて満たしていることが必要です。
①実施する教育訓練が、その雇用する全ての派遣労働者を対象としている。
ただし、実際の教育訓練の受講にあたっては、次の者については、その教育訓練は受講済みとして取り扱うことができます。
(ア)過去に同じ内容の教育訓練を受けたことが確認できる者
(イ)その業務に関する資格を有している等、明らかに十分な能力を有している者
なお、受講済みとして取り扱うことができる派遣労働者であっても、その者がその教育訓練の受講を希望する場合は、受講させることが望ましいとされています。
②実施する教育訓練が、有給かつ無償で行われている。
教育訓練の受講時間を労働時間として扱い、相当する賃金を支払うことを原則とします。
ただし、派遣元事業主において、時間を管理した訓練を実施することが困難であることに合理的な理由がある場合は、キャリアップに係る自主教材を渡すなどの措置をとることも可能です。
例えば、派遣元事業所と派遣先の事業所との距離が非常に遠く、終業後に訓練を行うことが困難である場合であって、eラーニングの設備もない場合などが考えられます。その場合は、その教材の学習に必要とされる時間数に見合った手当を支払うことが必要です。
また、これらの取扱いは就業規則または労働契約などに規定しなければなりません。
なお、派遣労働者がこの教育訓練を受講するためにかかる交通費について、派遣先との間の交通費より高くなる場合は、派遣元事業主が負担するものとされています。
③実施する教育訓練が、派遣労働者のキャリアアップに資する内容である。
教育訓練の内容は、派遣労働者としてより高度な業務に従事すること、派遣としてのキャリアを通じて正社員として雇用されることを目的としているなど、キャリアアップに資するものであることが必要です。
④派遣労働者として雇用する際に実施する教育訓練が含まれている。
訓練内容に、入職時の教育訓練が含まれていることが必要です。短期雇用の者であっても、入職時の訓練は受講させることができるように、派遣元事業主と派遣先が互いに協力することが望ましいとされています。
⑤無期雇用派遣労働者への教育訓練は、長期的なキャリア形成を念頭に置いた内容である。
派遣元事業主は、無期雇用派遣労働者に対する教育訓練計画が長期的なキャリア形成を念頭とする内容であることを説明できることが許可の要件となっています。
(3)「キャリアアップに資する教育訓練」とは
ここまで見てきたように、「キャリア形成支援制度」の教育訓練は、「キャリアアップに資する内容のものであること」が要件となっています。
では「キャリアアップに資する」とは、どういう内容を指すのでしょうか。
例えば次のようなことが考えられます。
①派遣労働者の賃金などの処遇が上がること
②派遣労働者から正社員として雇用されること
③職務を遂行するにあたって、技術的なレベルを上げること
上記はあくまで一例であり、派遣元事業主が雇用する派遣労働者に対して、どのような目標や目的を持って成長していって欲しいか、どのような派遣労働者になって欲しいかによって、キャリアアップに対する考え方も様々なものとなります。その目標や目的を達成するために計画された訓練が「キャリアアップに資する」教育訓練です。
教育訓練は複数のコースを設けることも可能ですし、訓練内容によって対象者が異なっても問題ありません。
なお、ヨガ教室や趣味的な英会話教室、面接対策とは異なったメイクアップ教室のような、派遣労働者の福利厚生を目的とした明らかにキャリア形成に無関係なものを含むことはできませんのでご注意ください。
また、すでに自社の社員を長期間、無期雇用派遣労働者として派遣している場合であっても、教育訓練計画を策定する必要があります。その場合は、その派遣労働者を対象とした教育訓練計画を策定するとともに、今後新たに派遣労働者を雇い入れた際に対応できるように、入職時の教育訓練を含めた教育訓練計画を策定しなければなりません。
(4)教育訓練の時期・頻度・時間数等
①時期・頻度
派遣労働者に対して入職時の教育訓練は必須です。また、少なくとも最初の3年間は毎年1回以上の教育訓練の機会の提供が必要であり、キャリアの節目などの一定の期間ごとにキャリアアパスに応じた研修等を用意することが必要です。
②実施時間数
実施時間数については、フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人あたり、毎年概ね8時間以上の教育訓練の機会を提供する必要があります。
③就業時間等への配慮
派遣元事業主は策定された教育訓練計画の実施にあたって、教育訓練を適切に実施できるように就業時間等に配慮しなければなりません。なお、派遣元事業主は、派遣先に対して、派遣労働者が教育訓練を受けられるように協力を求めることが望ましいとされています。
(5)労働者派遣事業許可申請の際の提出書類
労働者派遣事業の許可申請の際には、キャリア形成支援制度に関する計画書(様式第3号ー2)の添付書類として、教育訓練計画の詳細が記載された書類の提出が必須となっています。
この詳細説明書類については、決まった様式はありませんので自由に作成しても問題ありませんが、管轄の労働局によっては記載例や説明用シートのひな形が労働局のホームページに掲載されているので、そちらを利用することもできます。
例えば、愛知労働局では次のような「説明用シート」が記載例とともに用意されています。
ただし、管轄の労働局によっては、より詳細な説明書類や訓練テキスト等の資料を求められることもありますので、事前にご相談ください。
以上、今回はキャリア形成支援制度のうち「キャリアアップに資する教育訓練」について取り上げました。労働者派遣法改正以降、新規許可申請のみならず更新申請においても厳しく審査を受ける項目の一つですので、ぜひ早めのご準備、専門家へのご相談をお勧めいたします。