特定技能外国人と労働者派遣事業
コロナ禍が終息し、外国人人材の活躍が多いに期待されるなか、「特定技能」と労働者派遣に関するお問い合わせが多く見受けられます。そこで今回は、この「特定技能」について取り上げてみたいと思います。
(1)特定技能在留外国人数の推移
「特定技能」とは、深刻化する人手不足に対応するため、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行っても、なお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる制度としてつくられた在留資格で、平成31年4月1日に施行されました。
創設されて1年後の令和2年3月末現在、特定技能1号外国人数は3 ,987人でしたが、2年後の令和3年3月末現在には22,567人。コロナ禍の影響もあり、当初見込みよりは下回っているものの、最も新しく公表されたデータでは令和5年6月末現在173,089人となっています。
ちなみに、「特定技能」には1号と2号の2種類があり、「特定技能1号」は特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、「特定技能2号」は特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
特定技能2号の在留外国人数は、令和5年6月末現在12人ですので、相当難易度の高い資格となっています。
(2)特定技能と技能実習
「特定技能」と言葉が似ている「技能実習」という制度があります。混同しがちなため、こちらにも少し触れておくことにします。
まず、特定技能制度は、深刻な人手不足に対応するために、特定の産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を受け入れるものです。
これに対して、技能実習制度は、人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術または知識の移転を図り、国際協力を推進することを目的とする制度となっており、制度の趣旨が全く異なります。技能実習法第3条第2項に「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。」とはっきり明記されているとおり、人手不足を補うための手段として雇用することはできませんので、派遣労働者として技能実習生を雇用することはできませんのでご注意ください。
(3)特定技能外国人の受入れ分野と労働者派遣
特定技能1号による外国人の受入れ分野(特定産業分野)は、次の12分野となっています。そのうち、特定技能2号での受入れ対象は、介護分野以外の11分野となります。
※介護分野については、現行の専門的・技術的分野の在留資格「介護」があるので、特定技能2号の対象分野とはなっていません。
・特定技能受入れ分野
1. 介護分野
2. ビルクリーニング分野
3. 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野
4. 建設分野
5. 造船・舶用工業分野
6. 自動車整備分野
7. 航空分野
8. 宿泊分野
9. 農業分野
10. 漁業分野
11. 飲食料品製造業分野
12. 外食業分野
以上が、特定技能の受入れ分野ですが、このうち「派遣」の雇用形態が認められる分野は、現在のところ、「農業分野」と「漁業分野」の2分野のみです。
そもそも、特定技能は、直接雇用が原則であるところ、この2分野のみが認められています。
その理由は、「農業及び漁業については、季節による作業の繁閑が大きく、繁忙期の労働力の確保や複数の産地間での労働力の融通といった現場のニーズがあるところ、これに対応するためには、派遣形態を認めることが必要不可欠と考えられるものです。」(法務省「特定技能制度に関するQ&A」より)とされています。
(4)特定技能外国人を受け入れる場合の要件
農業分野と漁業分野の2分野において、派遣の雇用形態による受入れが認められていることはすでに書きましたが、その上で、派遣元である受入れ機関は、受入れ機関が満たすべき通常の要件に加えて、次のいずれかに該当することが求められています。
①当該特定産業分野に係る業務又はこれに関連する業務を行っている個人又は団体であること。
②地方公共団体又は前記①に掲げる個人又は団体が資本金の過半数を出資していること。
③地方公共団体の職員又は前記①に掲げる個人又は団体若しくはその役員若しくは職員が役員であることその他地方公共団体又は前記①に掲げる個人又は団体が業務執行に実質的に関与していると認められること。
④外国人が派遣先において従事する業務の属する分野が農業である場合にあっては、国家戦略特別区域法第16条の5第1項に規定する特定機関であること。
(法務省「特定技能制度に関するQ&A」より)
以上に加えて、特定技能外国人が派遣される派遣先についても、次のいずれにも該当することが求められています。
①労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること。
②過去1年以内に、特定技能外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者を離職させていないこと。
③過去1年以内に、当該機関の責めに帰すべき事由により行方不明の外国人を発生させていないこと。
④刑罰法令違反による罰則を受けていないことなどの欠格事由に該当しないこと。
(法務省「特定技能制度に関するQ&A」より)
(5)労働者派遣事業許可申請時の注意点
労働者派遣事業の許可申請時に提出する様式書類には、特定技能外国人に関して記載する項目はありません。したがって、許可取得後に特定技能外国人を派遣する予定があったとしても、申請時に特別に準備する書類などはルール上規定されていません。
しかし、管轄の労働局によっては、独自の用紙(アンケートという形が多いですが)にて外国人を派遣する予定の有無、その場合の在留資格、国籍、人数などを調査する場合があります。その際に、追加書類などが必要になる可能性がありますので、予め管轄の労働局にご確認されることをお勧めします。
今回は、特定技能外国人の派遣について書いてきましたが、そもそも特定技能外国人を雇用するためには、受入れ機関としての要件を満たし、出入国在留管理庁長官に対し、各種届出を随時または定期的に行う必要があります。労働者派遣事業許可を取得するだけでは、特定技能外国人の派遣をすることはできませんので、ご注意ください。