人材ビジネスと賃金のデジタル払い
4月から賃金のデジタル払いに関する改正が施行されますが、人材ビジネスにはどのような影響が考えられるでしょうか。
労働基準法は「賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」(24条1項)とし、賃金は「通貨」で支払わなければならないとする「通貨払いの原則」が規定されていますが、例外として、労働者が同意した場合には、①銀行口座、②証券総合口座への賃金支払が認められています(施行規則7条の2)。ところが、昨今はキャッシュレス決済や送金サービスの多様化が進み、資金移動業者の口座への資金移動を給与受け取りに活用するニーズも見られることから、一定の要件のもとに厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(賃金のデジタル払い)が可能となる改正が行われます。
賃金のデジタル払いには、労働者側に不利益が生じる可能性も懸念されることから、資金移動業者の指定にあたっては、①破産時などの賃金の保証、②口座残高上限額は100万円以下、③不正為替取引などで生じた損失の補償、④10年以上の口座残高の受け取り、⑤1円単位で現金化、毎月1回以上手数料負担なく受け取り、⑥実施状況・財務状況を適時厚労相に報告、⑦賃金支払い業務を適正かつ確実に行う技術的能力と十分な社会的信用、といった厳格な要件が置かれています。
人材ビジネスは、一般的に新規採用のサイクルを繰り返すことで事業運営が担われているケースが多いことから、デジタルマネーの持つ労働者側の魅力やメリットを訴求することで、競争力を維持・強化できる可能性が高いと考えられます。PayPayや楽天ペイなどのデジタルマネーのサービスに親和性を感じて使いこなす人は、複数の事業所を掛け持ちしたり、定期的に就業先を変えてキャリアアップを目指す派遣労働者の中にも、多く見られる傾向があります。
会社側が過度の誘導を行うことはもちろん論外ですが、賃金受け取りの選択肢が増えることにメリットを感じる人は少なくないと考えられるため、採用や定着にあたってのひとつの方策として有効に機能するケースも十分に考えられるでしょう。
また、労働時間が変則的であったり、複数の派遣業務を兼職するなど多様な働き方をしている労働者、あるいは自らの就学や家族の介護といった家庭事業を抱える労働者の中には、賃金の月2回以上払いを希望する人も存在し、なかにはそれに応じて週払いなどを行う会社もあります。
詳細は今後の実態を見る必要がありますが、一般的にはデジタル払いにともなって振込手数料は銀行振り込みよりも安くなるケースが多いと考えられることから、今後は実務的にも従来よりも柔軟な対応ができる会社も増えてくるかもしれません。
手数料の低減による管理コストの効率化は、豊富で多様な人材を擁する人材ビジネス会社にとっては業務管理を超えて経営レベルの変革につながる可能性もあり、今後の付加価値や新たな訴求も含めたデジタル払いにともなう人材ビジネスの新規モデルが模索されていく可能性もあるかもしれません。